「やばい」を使うたびに偏差値が下がる
「『やばい』を使うたびに偏差値が0.1下がる」と生徒に伝えています。
なんにでも使える便利な言葉を使うことのデメリットはなんでしょうか。
「偏差値が1下がる」でもいいぐらいだ。
テストで悪い点を取ったら「やばい」
宿題をたくさん出されたら「やばい」
おいしいごはんを食べても「やばい」
面白い冗談を聞いたときも「やばい」
指導している中3の女子生徒の話です。
優秀な生徒でとてもまじめなのですが、ただ一つ、使う言葉に無頓着すぎるのが玉に瑕です。
「やばい」は江戸時代に生まれた言葉で、もともとは無法者が使う言葉です。
もとは犯罪者が使っていた言葉だから使ってはいけないとは思っていません。
「やばい」は(自分が悪さをするのに)まずい状況にあることを意味する言葉です。
もっぱら否定的な意味で用いる言葉です。
それを肯定的な意味にも転用するからよくないと思っているわけでもありません。
表現としては面白いけれど
ことばに汎用性をもたせて転用するのは、表現としてはとても面白く、そこに創意工夫があればとても楽しく言葉を操ることができます。
転用は比喩の一種で、言語抽象化の入り口となります。
たとえば「権力に対して忠実なひとを」「イヌ」と呼んだり、
芸人が絶好の笑いのチャンスに対して「おいしい」と言ったりすることです。
どちらも誰が最初に言ったのかは知りませんが、冗長になりやすい表現を一言で表すことができて「うまい」言い回しだと思います。
ただ、わたしが「やばい」を使うと「偏差値が下がる=成績が下がる」と口を酸っぱくして言っている理由もこの「汎用性の高さ」にあります。
反射的にことばを口に出しているだけ
冒頭の例に戻りますが
テストで悪い点を取ったら「やばい」
宿題をたくさん出されたら「やばい」
おいしいごはんを食べても「やばい」
面白い冗談を聞いたときも「やばい」
「やばい」という言葉を発しているとき、それが意味している内容はまだ結晶化していない状態にあり、ぴったりくる言葉を探している途中にあります。
その段階で、「ある過剰な感情が高ぶった状態」をすべて「やばい」と表現してしまうと、それはもう反射的に口から言葉を出しているにすぎません。
もっと適切な言葉があるかもしれないのに、それを探すことをせず、面倒だからすべてを「やばい」で済ませる。これでは鋭敏な言語感覚がはぐくまれるはずがありません。
そこに欠如しているのは言葉を吟味する。という行為です。
親は言葉遣いに敏感であるべきだ
子供の言葉遣いに最も影響を与えるのは、ふだん暮らしを共にする人です。多くの場合は家族がそれにあたるでしょう。
子供にちゃんとしたことばを使わせたいのであれば、親は自分の言葉遣いに無自覚であってはいけません。
子供の言葉遣いがなんか気になるなと思ったら、たいてい親自身の言葉に似ているものです。
わたしの子供が下の子を理詰めで問い詰めるのを聞いていたら、わたしの口ぶりにそっくりでした。反省です。
親が子供に対して(誰に対しても…)気を付けるべき言葉遣いは以下の3点です。
• 丁寧な言葉で話す。
• 接続詞を使う。
• 口癖をなくす。
丁寧な言葉で話す
わが子だから乱暴な言葉を使っていいというわけではありません。「親しき中にも礼儀あり」子供は自分の言葉遣いを真似するものだと思って、なるべく丁寧な言葉で話しましょう。
子供を「お前」と呼んでいませんか。なるべく名前で呼びましょう。
あえて「です」「ます」の丁寧語で話すのも良い方法です。「です」「ます」を用いると乱暴な言葉が出づらくなるので「北に国から」の田中邦衛になったつもりで話しかけてみましょう。
接続詞を使う
「つまり」「けれども」などの接続詞を意識して使うようにすると、論理的な話し方になります。論理性に優れる話し方は、当然論理的な思考を生みます。論理性の高さはすべての学習にとってプラスになりますので、意識して接続詞を用いて話してください。
面倒でしたら、次の2種類だけでも試してみてください。
「つまり」「ようするに」「結局」などの換言。
「しかし」「けれども」「だが」などの逆説。
子供がこれらの言葉を使うようになると、すっきりした話し方が培われます。
口癖をなくす
これは自分で気づくのはなかなか難しいので、家族に口癖があったら教えてほしいと伝えておくとよいです。口癖はことばのバリエーションが失われる一因になり、口癖は考えなしに言葉が出てくるきっかけにもなってしまいます。
子供も「また始まった」ぐらいに思って話を聞かなくなりますので、口癖には意識的になったほうがよいでしょう。
どれもすこぶる難しいですね。
わたしも実践できているかというと、そうでもありません。
ただ、なるべく自分の言葉遣いに自覚的でありたいとは心がけています。
仕事で会議をしているとカタカナ語が飛び交うことがありますね。エビデンスとか、アジェンダとか…。
エッジの利いた(尖った…)言葉は時と場所が合えば効果的ですが、ぴったりくる日本語もあるのにそれを使わないのは工夫がないように思います。
【次回更新日】2021年7月16日(金)